kern typefaces を立ち上げます。

Information / 2024.8.17 __ Takaya Ohta

こんにちは!
今日は、私たちが立ち上げるタイプファウンダリ・プロジェクト「kern typefaces」についてお知らせします。

背景

2017年の創業から8年の間、ケルンでは数多くのアイデンティティ・デザインを担当し、その中でさまざまなシンボルマークやロゴタイプを制作させていただきました。

kern typefaces : 1724

初期 : シンボルに調和する書体のセレクト
中期 : セレクトした書体の部分的カスタム
後期 : オリジナルのロゴタイプ制作

この変遷の中で、ケルンにもシンボルだけではなく、書体制作のための知識と技術が徐々に蓄積されつつあります。しかしながら、ビスポークな書体の提供をクライアントに限定すると、私たちの技術の向上は限りある年間の制作量に依存してしまうことが予見されました。

そこで kern typefaces を立ち上げ、1つの常設プロジェクトとして書体制作と販売に取り組みます。エンドユーザーに対して成果物を広く提供し収益化することでプロジェクトに持続性を持たせつつ、改良作業やフィードバックを通して獲得した技術を、ユーザーとクライアントの双方に還元します。

コンセプト

blog : about kern typefaces

kern typefaces の書体を届けたいのは、すべてのクリエイター、特にデジタルを土壌に拡大しているコンテンツクリエイターの方々です。

今日、より多くの人が写真や動画を撮影し、編集し、公開するようになりました。このプロセスで多様な書体が使われていますが、観察やヒアリングを通して、ある課題が浮かび上がってきました。フォントに精通していない人にとって、特徴的な書体は自身の創作物とのコンビネーションが難しく、ユニバーサルな書体はその微細な違いを比較/選定することに難しさがあるのでは?ということです。

――私たちならではの視点で、それぞれのクリエイターにフィットする書体が作れないか。これが kern typefaces を通して試みたい実験です。

まもなく公開する第一号書体「Flux」については改めてお知らせするとして、本日はプロジェクト全体の特徴についてお話させてください。

1: アンロック

kern typefaces : point 1

kern typefaces では、購入者数に応じて機能やウエイト、スタイルを拡張していきます。

現状、私たちにとって書体の制作は、シンボルやロゴタイプのそれと比べて労働集約的で、はじめからフルセットで提供するとなると多大な時間を要することになります。このアプローチではクライアントワークの繁忙期に本プロジェクトの優先順位が下がってしまい、リリースがずるずると延びてしまう悪循環をも招きかねません。

そこで初版のリリースでは、ユーザーが書体を不便なく利用できることにスコープを絞り、制作から発表までのリードタイムを大幅に短縮します。これによって、新作の並行開発、需要の高いシリーズの優先的な拡張、トレンドを色濃く反映したデザイン、他のクリエイターとのコラボレーションなど、私たちがエンドユーザーへ直接お届けできるからこそできる、柔軟な取り組みを実現させます。

2: コミュニティ

kern typefaces : point 2

次に、私たちはユーザーの声でクオリティの向上を加速させます。

これは決して甘い品質のまま、初版をリリースすることを意味しません。第一号書体「Flux」の制作には約4ヶ月の時間を費やし、私自身が納得のいく段階で公開に踏み切ります。

しかし、歴史ある書体制作の市場において、我々は新参者です。そのような状況下でも尻込みすることなく制作・発表を続けるために、みなさんのお力を貸してください!

具体的には、購入者限定の Discord コミュニティを開設し、チャンネル内でフィードバックやアップデートの要望を募ります。実際に書体を使ってくださる人たちの声に広く耳を傾けることで、自分たちの反芻だけではたどり着けなかったり、発見に時間を要する改良点に素早く到達したいと考えています。

「Flux」の制作では、中盤から小規模なベータテストを実施し、テスターの方々の使用感も踏まえながら初版の準備を進めてきました。ある種の「不完全さ」を残したままアウトプットを提供する行為は、完全性や永続性を目指すアイデンティティ・デザインの制作とは真逆の行為です。しかし、その段階から客観的な意見をいただいたり、テスターの作例を通して私たちも書体を客観視して改良へ向かえるのは、今までにない面白い経験でした。

3: アップデート

kern typefaces : point 3

最後に、アンロックとコミュニティを経て生み出されたアップデートは、原則としてすべての購入者に提供します。

たとえば、「Flux」の初版は1ウエイトで提供されますが、複数のウエイトやスタイルに発展できる余地があります。その価値がある書体かどうかは購入数によって決まり、初期から私たちに賭けてくださった方が大きなリターンを得られる仕組みになっています(=アンロックの段階やフルセットの完成時に価格が変更される可能性があります)。

将来的にはすべての書体をフルセットで提供することを念頭に置きつつ、着実に kern typefaces をケルンの2本目の柱として育めるよう、このような開発ー改良ー提供の仕組みに至りました。これを成立・加速させるべく、本プロジェクトでは初版から英語版のページを用意して世界中で販売します(ケルン全体の多言語化も準備中です!)。ぜひとも、みなさまにもお誘い合わせの上ご購入いただき、本プロジェクトのエコシステム確立の一助となってくださると嬉しいです。


以上が kern typefaces の全容です。

この8年、私は「企業の思想を意匠に変える。」をテーマに活動してきました。これは対象のアイデンティティを描くと同時に、私たちのアイデンティティを探求する取り組みです。

そしてスタッフを増員したこの1年は、常に次の一手を模索をしつづけていました。それは単に手数を増やすのではなく、これまでの活動と地続きで、これからの活動へ還元されるべきだと考えています。――kern typefaces が、あなたのアイデンティティを拡張・表現できる場にしていきたいです。

余談;

kern typefaces : digression

私がデザインでお金をいただけるようになったのは大学生のころで、初仕事の1つは当時急伸していた iPhone ケース販売サイトのバナー広告を日給1万円でひたすら作るというものでした。

今回販売する書体は、その時の値付けを意識しています。あれから14年が経ち、制作の規模や期間はかつて想像していなかったほどに大きくなりましたが、ものを作り、お客さまに届け、その報酬をいただくという商いの原点に改めて立ち返り、その大変さと楽しさをチームで分かち合いたいという思いがあります。

ここまでお読みくださりありがとうございました。
「Flux」の公開は数日内を予定していますので、今しばらくお待ちください。